【民法改正】連帯保証人制度の変更点~契約書作成時の注意点を解説

2023.02.16 お金を借りる
【民法改正】連帯保証人制度の変更点~契約書作成時の注意点を解説

2020年4月の民法改正によって、連帯保証人制度が大きく変わりました。アパートの賃貸契約を結ぶ場合や以前の契約を更新する場合、銀行から融資を受ける場合など、法改正の影響を受けるケースでは手続きを進める際に注意が必要です。

この記事では、民法改正によって連帯保証人制度がどのように変わったのか、改正点や契約書作成時の注意点をわかりやすく解説します。

2020年4月に民法大改正が行われた背景

民法とは、物権や債権、相続など私人間の権利関係を定めた法律です。民法の規定のうち、債権関係(契約等)の規定は民法が制定されてから約120年もの間ほとんど改正が行われなかったため、時代の変化に合わせることを目的に20204月に改正が行われました。

この民法改正は、社会・経済の変化に対応した内容に改めるとともに、民法を国民一般にわかりやすいものにすることが目的です。そのため判例を反映して明文化し、平易な用語を使った表現に変更するなどの対応が行われました。さまざまな規定が改正され、その中でも連帯保証人制度に関する規定では主に以下の規定が改正または新設されました。

 

【民法改正による連帯保証人制度の変更点】

  • 個人の根保証契約
  • 事業用融資における意思確認手続き
  • 保証人・連帯保証人に対する情報提供義務

 

それぞれの変更点について、次章以降で解説していきます。

【民法改正①】個人の根保証契約

変更点の1つ目は「個人の根保証契約」に関する規定です。根保証契約とは、一定の範囲に属する不特定の債務について保証する契約のことで、例えば以下のようなケースが根保証契約に該当することがあります。

 

【根保証契約の例】

  • 子がアパートを賃借する際、賃料などを大家との間で親がまとめて保証するケース
  • 親を介護施設に入居させる際、入居費用や施設内での事故が発生した場合の賠償金などを介護施設との間で子がまとめて保証するケース

 

根保証契約では、契約を締結して保証人や連帯保証人になる際に主債務の金額がわかりません。これでは想定外の債務を負うことになりかねないので、今回の民法改正では保証人や連帯保証人の保護を目的としてルールが変更されました。

極度額(上限額)の定めがない個人の根保証契約は無効

極度額とは、保証人や連帯保証人が保証することになる債務の限度額のことです。

民法改正前は、貸金等債務(金銭の貸渡しや手形の割引を受けることによって負担する債務)を含む根保証契約については極度額の定めが必要でしたが、改正後はすべての個人の根保証契約で極度額を定めなければいけません。

例えば、子がアパートの賃貸契約を結ぶ際、親が連帯保証人になって極度額を50万円と定めた場合、子が家賃を累計で80万円滞納したとしても、連帯保証人である親が支払いの責任を負うのは50万円までです。民法改正後は、保証人や連帯保証人は自分が負う債務の上限を契約時に確認できるようになり、安心して契約を結べるようになっています。

特別の事情が発生した後の主債務は保証の対象外

保証人・連帯保証人が破産したときや、主債務者又は保証人・連帯保証人が亡くなったときなど、民法が定める特別な事情に該当した場合、個人の根保証契約は終了して元本が確定します。保証人や連帯保証人はその時点までに生じていた債務を保証すれば良く、その後に発生する債務を保証する必要はありません。

例えば、借主が亡くなった場合、家主が相続人に連絡して契約解除や明け渡しに向けた手続きを進める際、死亡後から明け渡しまでの期間の家賃は元本確定後の債務にあたるので、連帯保証人には請求できないことになります。

【民法改正②】事業用融資における意思確認手続き

変更点の2つ目は「個人が事業用融資の保証人や連帯保証人になろうとするときの手続き」の新設です。事業用融資では、その事業に関与していない親戚や友人などが安易に保証人や連帯保証人になって多額の債務を負う事態が起きていたので、今回の民法改正で意思確認の手続きが新設されました。

保証人や連帯保証人への意思確認を経ない保証契約は無効

人が事業用融資の保証人や連帯保証人になろうとする場合、公証人による保証意思の確認を経る必要があります。保証契約を締結する際、保証人や連帯保証人になろうとする人に対して、公証人が意思確認を行っていなければ契約は無効です。

ただし、主債務者の事業と関係が深い以下のような人については、意思確認の手続きは不要です。

 

意思確認の手続きが不要な人

主債務者が法人の場合

その法人の理事、取締役、執行役、議決権の過半数を有する株主等

主債務者が個人の場合

主債務者と共同して事業を行っている共同事業者や主債務者の事業に現に従事している主債務者の配偶者

 

また、住宅ローンを組んだり奨学金を借りたりする際の保証人や連帯保証人になる場合は、公証人による意思確認は不要です。手続きが必要になるのは、事業用融資の場合に限られます。

「保証意思宣明公正証書」の作成が必須に

意思確認の手続きは、保証人や連帯保証人になろうとする人が公証役場に出向いて行い、公証人が本人に質問して保証意思が確認されたら公正証書(保証意思宣明公正証書)が作成されます。

保証意思宣明公正証書は保証契約締結の日前1ヵ月以内に作成する必要があり、作成手数料は保証債務の金額に関係なく1件につき11,000円です。

公証人からは、次のような内容を質問されます。

 

  • 保証の対象となる主債務の具体的な内容を理解しているか
  • 主債務者の借金を自分が代わりに払うリスクを負うことを理解しているか
  • 主債務者の財産・収支の状況について主債務者からどんな情報を提供されたか

 

【民法改正③】保証人・連帯保証人に対する情報提供義務

変更点の3つ目は「保証人・連帯保証人に対する情報提供義務」の新設です。民法改正によって、3つの情報提供義務が新たに設けられました。

主債務者が情報提供しなかった場合や嘘の情報を提供した場合、そのことを債権者が知り、又は知ることができたときは、保証人や連帯保証人は保証契約を取り消せます。

保証契約を結ぶ際の情報提供義務

他人に保証人や連帯保証人になってもらうことを主債務者が依頼する場合、保証人や連帯保証人になる人に対して、以下の情報を提供しなければいけません。

 

  • 財産及び収支の状況
  • 主債務以外に負担している債務の有無、その額、履行状況
  • 主債務の担保として他に提供し、又は提供しようとするものがある場合はその内容

 

主債務者の財産の状況を把握できることで、保証人や連帯保証人になるかどうかを決める際の判断材料として使うことができます。

主債務の履行状況に関する情報提供義務

証人や連帯保証人は債権者に対して、主債務についての支払状況に関する情報の提供を求めることができます。保証人や連帯保証人の請求があった場合、債権者は遅滞なく、主債務の元本及び主債務に関する利息、違約金、損害賠償等の不履行の有無や残額、弁済期が到来している対象の額に関する情報を提供しなければいけません。

主債務者が期限の利益を喪失した場合の情報提供義務

期限の利益の喪失とは、債務者が分割金の支払いを遅滞するなどしたときに一括払いの義務を負うことです。主債務者が期限の利益を喪失した場合、遅延損害金の額が大きく膨らんでしまい、保証人や連帯保証人が多額の支払いを求められることになりかねません。

そこで民法改正後は、保証人や連帯保証人が個人である場合、主債務者が期限の利益を喪失したことを債権者が知ったときから2ヵ月以内に、その旨を保証人や連帯保証人に対して債権者が通知することとされました。

2ヵ月以内に通知しなかったときは、債権者は保証人や連帯保証人に対して、主たる債務者が期限の利益を喪失したときから通知をするまでの間に生じた遅延損害金に係る保証債務の履行を請求することはできません

民法改正(連帯保証人関係)が契約に与える影響と注意点

民法改正(連帯保証人関係)が契約に与える影響と注意点

民法改正の前後で連帯保証人制度が変わったので、連帯保証人が関係する契約を結ぶ際には注意が必要です。

例えば、改正前の契約書の雛形を使うと新法の規定に違反していて、契約が無効になる場合があります。契約締結時には、新法に則って対応するようにしてください。

民法改正前に締結した契約が20204月以降も続く場合

改正民法が適用されるのは、2020年4月1日以降に締結された契約です。それより前の契約は、旧法が適用されます。改正前に締結した契約がある場合、改正法の内容に従っていないと改正民法施行日から即時無効になるわけではありません。契約として引き続き有効ですので、新法に即した契約内容で再契約をするといった対応は不要です。

不動産オーナーが賃貸借契約を結ぶ場合

民法改正前は、賃貸契約を結ぶときに保証人の極度額の定めは不要でしたが、改正後に締結する賃貸契約では保証人の極度額の定めがないと契約は無効です。連帯保証契約が無効だと、不動産オーナーは連帯保証人に対して返済を請求できません。改正前の契約時に使っていた契約書を使うと、極度額の定めがない場合があるので注意してください。

法人や個人事業主が事業用融資を受ける場合

事業用融資を受ける場合、民法改正後は保証人や連帯保証人に対する意思確認をして公正証書を作成しないと無効です。

意思確認や公正証書の作成といった手続きは、金融機関が把握・対応するので漏れる心配は基本的にありません。

保証人や連帯保証人になる場合には、公証人からいろいろと質問されて、意思確認をされるので、保証の内容やリスクをしっかりと理解し、新設された情報提供義務に従って主債務者から財産の状況等を聞いておきましょう。

まとめ

2020年4月の民法改正後は、個人の根保証契約で極度額の定めが必要になり、事業用融資の保証人や連帯保証人になる際に意思確認や公正証書の作成が必要になりました。

民法改正前の契約とは取り扱いに変更点があるので注意してください。アパートの賃貸契約を結ぶ際や事業用融資を受ける際、契約書に必要な内容が記載されていなかったり必要な手続きを踏んでいなかったりすると、連帯保証契約そのものが無効になる場合があります。

保証人や連帯保証人が関係する契約では専門的な知識が必要になり、万が一にも契約が無効にならないように慎重な対応が求められます。契約や連帯保証人制度に関してお悩みの方は弁護士や司法書士など専門家への相談をおすすめします。

この記事を監修したのは、

admin

寺島 能史

東京司法書士会
会員番号: 第6475号
認定番号: 第901173号