連帯保証人は支払い拒否可能か|主債務者が支払い能力なしの場合の対処法
親族や、友人の連帯保証人となったにもかかわらず、実際にどのような義務が発生するのか明確に把握できていないケースがあります。
連帯保証人が負う義務の内容を把握していないと想定外のトラブルに巻き込まれ、最悪の場合裁判や自己破産まで追いやられる恐れがあります。そのため、連帯保証人に関するリスクは必ず把握しておかなければなりません。
この記事では、連帯保証人は支払い拒否可能か、主債務者に支払い能力がない場合の対処法などについて解説します。最後までご覧いただき、連帯保証人になる際のリスクをしっかり把握することで、債権者からの請求に対し適切な対応を取れるようにしておきましょう。
■この記事でわかること
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目次
連帯保証人は基本的に支払い拒否できない
連帯保証人は、基本的に債権者からの請求を拒めません。
なぜなら、連帯保証人と主債務者の立場は同じであるとみなされるためです。主債務者と同様の責任を負うため、支払いに応じる必要があります。
連帯保証人が、なぜこのような重い責任を負うかというと、それは債権者保護のためです。仮に主債務者が自己破産などで返済不能に陥った場合、債権者は損失を被ります。このような債権者のリスクを抑えるのが、連帯保証人制度の趣旨です。
支払いに応じないと、その事実が信用情報機関に記録されたり、債権者から法的措置を取られたり恐れがあることも主債務者と変わりません。債権者の訴えが裁判で認められた場合、連帯保証人の財産は差し押さえられてしまう可能性があります。
【保証人とは違う】連帯保証人が負う2つの義務
連帯保証人は保証人と異なり、主債務者と同等の責任を負います。
具体的には、以下2つの義務を負います。
- 主債務者に支払い能力がない場合に弁済する必要がある
- 他に保証人(連帯保証人)がいても請求額を支払う義務がある
以下の見出しで、それぞれについて解説します。
1.主債務者に支払い能力がない場合に弁済する必要がある
連帯保証人は、主債務者が返済不能に陥った場合、その負債を弁済する義務を負います。承諾したうえで連帯保証人になったのであれば、基本的に支払いの拒否はできません。
なお、連帯保証人に対する請求は、残債の一括払いが一般的です。なぜなら、連帯保証人への請求が行われるのは、主債務者が自己破産や長期滞納をした場合であるためです。
つまり、債権者は残債の回収を急いでいることが多いため、基本的には一括払いで請求されます。
2.他に保証人(連帯保証人)がいても請求額を支払う義務がある
連帯保証人は、他に保証人(連帯保証人)がいた場合でも支払いを拒めません。他の保証人や主債務者への請求依頼も不可能です。また、請求額を全額負担する義務も負います。
この理由は、保証人に認められる以下3つの権利が、連帯保証人には認められていないためです。
- 催告の抗弁権:債権者からの請求に対し、先に主債務者へ請求するよう主張する権利
- 検索の抗弁権:主債務者に十分な財産がある場合に、その財産を差し押さえるように主張する権利
- 分別の利益:複数の保証人が存在する場合に、その人数で割った金額のみ負担すればよいという権利
例えば、150万円の債務を連帯保証人1人、保証人2人で保証している場合、通常の保証人であれば、50万円を超える部分の請求は拒めます。
しかし連帯保証人の場合、50万円を超える金額を請求されても、そのすべてに対して支払い義務を負います。
【主債務者に支払い能力なし】連帯保証人として請求された場合の5つの対処法
主債務者に支払い能力がない場合、連帯保証人は残債のすべてに対して支払い義務を負います。債権者から請求された場合は、以下5つの対処法を参考にしてください。
- 勝手に連帯保証人にされたと債務者に伝える
- 最終返済日から5年経過している場合は時効援用する
- まず一括返済し後から主債務者や他の連帯保証人へ請求する
- 支払いが難しい場合は債権者に分割返済をお願いする
- 専門家に相談して債務整理を検討する
上記のうち、できそうなことがあれば実践してみましょう。
1.勝手に連帯保証人にされたと債務者に伝える
勝手に連帯保証人にされた場合、債権者に対して連帯保証契約の無効を主張することで、返済義務を免れる可能性があります。
契約は原則、当事者の合意があって初めて成立するものです。したがって、自身の意思によらず連帯保証人にされた場合は、連帯保証契約を無効とする余地があります。
ただし、連帯保証契約の無効を主張するのは簡単ではありません。連帯保証契約の無効を主張するためには、主張内容を示した内容証明郵便を債権者宛に送付する必要があります。また、連帯保証契約の無効を証明するためには、法律に関する専門的な知識も欠かせません。
勝手に連帯保証人にされたにもかかわらず、債権者からの請求を受けた場合、その場では一旦支払いを拒否しましょう。なぜなら、一部でも返済してしまうと、保証義務を認めたとみなされるためです。
とはいえ、返済請求を無視してはいけません。返済請求を無視し続けることで、裁判所からの財産差し押さえ請求が実行されてしまう恐れがあるためです。
債権者が連帯保証人の主張を認めない場合、連帯保証契約の有効性を争って、裁判に発展することもあります。この場合は自身のみでの対応は困難であるため、専門家の力を借りるのが賢明です。
2.最終返済日から5年経過している場合は時効援用する
最終返済日から5年(債権者が個人の場合は10年)経過している場合には、時効援用することで債務が免除されます。
時効援用の権利は、主債務者だけではなく連帯保証人にも認められています。
ただし、主債務者の時効期間が中断されると、連帯保証人の時効期間も同様にリセットされます。そのため、以下のようなことが起きた場合、連帯保証人は保証義務を免れません。
- 主債務者が債務の存在を認めた
- 主債務者が返済を継続した
- 主債務者に対して裁判が起こされた
この場合は、主債務者に対する時効期間がリセットされてしまうため、連帯保証人も時効援用ができなくなってしまいます。
3.まず一括返済し、後から主債務者や他の連帯保証人へ請求する
債権者から残債を一括請求されたら、支払う資力がある場合は応じましょう。一括請求に応じないと、日が経つにつれて遅延損害金額が膨らみ、かえって負担が大きくなってしまいます。
また、裁判を起こされるより厄介な事態に発展する恐れもあります。
一括返済後は、主債務者や他の連帯保証人へ返済額を請求しましょう。建て替えた返済額を、主債務者や他の連帯保証人に対して請求できる権利を「求償権」といいます。
主債務者に対しては、返済額すべてを請求できます。一方で他の連帯保証人には、返済額を連帯保証人の頭数で割った分のみ請求可能です。
4.支払いが難しい場合は債権者に分割返済をお願いする
支払いが困難な場合には、債権者に対して分割返済をお願いすることで、負担を軽減できる可能性があります。
なぜなら債権者としては、連帯保証人に払ってもらえないことで資金の回収ができなくなるよりも、分割返済でも回収できたほうが安全だと考えられるためです。
ただし、分割返済にも注意点が2つあります。
1つめは、総返済額が高額になる可能性があることです。分割返済にすることで、利息分が残債元本に上乗せされるためです。金利が高額な場合は、総返済額が大きくなってしまう恐れがあるため、金利については確認しておきましょう。
2つめは、時効援用の権利を失う恐れがあることです。時効が成立していることに気づかずに返済してしまうと、時効期間がリセットされています。返済に応じる前には、必ず時効が成立しているかどうか確認しましょう。
5. 専門家に相談して債務整理を検討する
支払いが困難な場合には、専門家(弁護士や司法書士)に相談して債務整理も検討しましょう。債務整理とは、債務の減額や免除を行う手続きのことです。債務整理が認められれば、返済の負担を軽くできます。
ただし債務整理した場合は、個人信用情報のブラックリストに5~10年間掲載されます。ブラックリストに掲載されている間は、基本的にローンの契約やクレジットカードの作成はできません。
連帯保証の種類ごとに気をつけるべきポイント
連帯保証の種類に応じて、注意すべきポイントが異なります。以下の見出しでは、連帯保証の種類ごとに気をつけるべきポイントについて解説します。
住宅ローンの連帯保証人の場合
住宅ローンの場合は、基本的に連帯保証人を必要としません。なぜなら住宅ローンでは、借入時に購入する住宅自体を担保とするためです。
そのため、債務者が返済不能に陥った場合でも、債権者は住宅を競売にかけることで貸金を回収できます。
しかし、住宅ローンでも連帯保証人を必要とするケースがあります。主に以下のような事例が挙げられます。
- 2人以上の収入を合算して不動産を購入する場合
- 住宅の所有名義を2人以上の共有名義とする場合
- 親名義の土地に子が住宅を建てるなど、担保提供者とローン契約者が異なる場合
- ペアローンや親子ローンを組む場合
- 自営業やフリーターなど、収入が安定していない場合
- 金融機関の審査結果を求められた場合
住宅ローンの連帯保証人となるケースで問題になりやすいのが、住宅を購入した夫婦が離婚するパターンです。
夫婦で住宅を購入する際は、いずれかが主債務者、配偶者が連帯保証人となります。そして万が一婚姻関係が解消されても、連帯保証契約へは影響しません。
住宅を購入した夫婦が離婚するケースでありがちなのが、離婚してから連帯保証人にローンの支払い通知が来ることです。
しかし、2人の関係が険悪になっている場合、返済後も求償権の行使などにおいてトラブルになる恐れがあります。
したがって、可能であれば夫婦仲が良好なうちに、ローンや住宅の将来的な所有権について話し合っておくのがよいです。
連帯保証人から外れたい場合は、住宅ローンを借り換えることで、連帯保証義務を免れる可能性があります。連帯保証人から外れることができない場合は、不動産の売却も選択肢として考えられます。住宅の売却価格がローン残債を上回るのであれば、一括返済が可能です。
賃貸物件の連帯保証人の場合
賃貸物件の契約時にも、連帯保証人が必要となる可能性があります。
例としては、子や兄弟などに連帯保証人になってもらうことを頼まれるケースが挙げられます。
賃貸物件の連帯保証人となる際に誤解しがちなのが、賃貸契約更新時に連帯保証人として署名・捺印しなくても連帯保証人からは外れないことです。
普通借家契約の場合、賃貸契約は更新されるのが前提であるため、連帯保証人の保証責任は賃貸契約更新後も継続することになっています。
ちなみに、賃貸契約更新には「自動更新」と「合意更新」がありますが、連帯保証人の扱いはどちらも同様です。
この認識が誤っていると「賃貸契約更新時は連帯保証人になっていないから、もう責任を負わなくて済む」と誤解してしまいます。
しかし、実際には連帯保証人から外れていません。したがって、物件の借主が家賃を滞納して連帯保証人のもとに請求が来た場合、支払い拒否はできないのです。
また、賃貸物件の連帯保証人となる場合、根保証によってもともとの保障額を超える金額を請求される可能性があります。
例えば、損害賠償金や、契約解除日を過ぎても引き渡しができない場合に発生する費用、共益費・管理費も請求されます。
ただし、2020年4月から施行された改正民法では、極度額を定めていない根保証は認められません。賃貸借契約の場合は、期間に制限がなく極度額の定めがない保証契約は、それ自体が無効です。
親族の連帯保証人を相続した場合
連帯保証人となっていた親族が死亡し、それを相続した場合、連帯保証責任もあわせて相続します。
しかし、なかには親族が生前に連帯保証人となっていた事実を知らずに相続してしまうケースがあります。このような場合でも、連帯保証責任は免れません。ただし、親族の死亡時に相続放棄すれば、連帯保証責任も負わずに済みます。
連帯保証契約を解除する方法
連帯保証契約は、基本的に解除できず、本契約期間満了まで継続するのが通例です。
しかし、債権者の合意が得られた場合は、連帯保証契約を解除できます。
例えば、連帯保証人が保有する資産を担保として提供したり、連帯保証人自身と同程度の収入がある別の連帯保証人を見つけたりした場合などは、債権者との合意が得られる可能性があります。
ただし連帯保証人を解除できても、連帯保証人であった期間の債務に対する責任は負い続けることになるため、要注意です。
同意なく連帯保証人にされた場合の支払い義務
同意なく連帯保証人にされた場合、基本的に支払い義務はありません。しかし、例外として支払い義務を負うケースもあります。
契約書の有無を問わず基本的に支払い義務はなし
同意なく連帯保証人にされても、基本的に支払い義務を負うことはありませんが、これは契約書の有無を問いません。自身の同意なく契約書が作成されていた場合は、原則として支払い義務を負わずに済みます。
他に同意なく連帯保証人される例として、家族が勝手に印鑑を持ち出し、連帯保証人の署名捺印を使用するケースがあります。このような場合も、連帯保証人としての義務は負いません。
請求を追認した場合は支払う義務がある
追認とは、もともと無効だった法律行為を有効なものと認めることです。効力を持たない行為として、無断で他者に代わって契約を結ぶ「無権代理」が挙げられます。
同意なく連帯保証人にされていた場合でも、追認すれば契約を認めたものとみなされます。よって、連帯保証義務を負うことになるため、請求の支払い拒否はできません。
家族が連帯保証人になった場合どのような義務が生じる?
家族が連帯保証人になった際の義務ですが、基本的に自身への影響はおよびません。なぜなら、家族であるという事実のみでは、連帯保証人となった家族の責任を負うとみなされる事情としては不十分であるためです。
ただし、先述のとおり親が死亡しその財産を相続した場合は、連帯保証人も同時に相続します。そのため、債権者から請求が来た際は支払い拒否できません。
連帯保証人に関するFAQ
連帯保証人になった際にでてきやすい疑問について、以下にまとめました。「もしも」の場合に備えて確認してみてください。
主債務者との間に「絶対に迷惑をかけない」という念書がある場合は支払い拒否できる?
主債務者との間に「絶対に迷惑をかけない」という念書がある場合でも、支払い拒否できません。
なぜなら、主債務者と連帯保証人との間に念書があったとしても、債権者との契約には影響がおよばないためです。主債務者は、本当に連帯保証人へ迷惑をかけたくないと考えていても、病気や勤務先の倒産などで収入がなくなる可能性があります。そのため、連帯保証人となる場合は、このようなリスクを想定しておきましょう。
主債務者が自己破産した場合どうなる?
主債務者が自己破産した場合は、借金の返済義務が連帯保証人に移ります。連帯保証人は、もともと主債務者が返済不能に陥った場合に、債権者を保護するための制度であるからです。よって、主債務者の返済義務がなくなったとしても、連帯保証人の返済義務は消えません。
請求額を支払えない場合はどうすればよい?
債権者からの請求額を支払えない場合は、以下のような対応を検討しましょう。
- 少し時間をもらって資金を用意する
- 分割返済を認めてもらう
- 時効が成立していないか確認する
- 債務整理する
離婚したら連帯保証契約を解除できる?
離婚しても、連帯保証契約を解除できません。婚姻関係の解消は、連帯保証人の解除事由として認められないためです。
連帯保証人になった結果「人生終わった」と感じる人がいるのはなぜ?
連帯保証人になった結果、絶望感を感じる場面は、連帯保証によって莫大な債務を背負ったり、住宅など大切な財産を差し押さえられたりするケースなどが挙げられます。このようなことが起きると、人によってはその時点で再起不能になると考える人がいます。
しかし、連帯保証人になった結果莫大な債務を抱えることになったとしても、そこで人生を諦める必要はありません。なぜなら、債務整理などの手段で債務を免除してもらえる可能性があるためです。
勝手に保証人にされないためにはどのような対策をすればよい?
勝手に保証人にされないようにするためには、印鑑や身分証明書などの保管場所を他者に知られないようにしましょう。このことは、家族に対しても同様です。
債権者からの請求を無視するとどうなる?
債権者からの請求を無視すると、最終的には連帯保証人の財産の差し押さえに発展します。
債権者は、まず電話や内容証明郵便などで残債の請求をしてきます。それでも支払いに応じないと、裁判で支払いを命じられる可能性があります。さらに、それでも支払わない場合は、裁判所の強制執行手続きにより、財産が差し押さえられてしまいます。
まとめ
連帯保証人は、主債務者が債務不履行になった場合、その債務を代わりに支払う義務があります。そして連帯保証人は、債権者からの請求を基本的に拒めません。
そのため、契約書に署名する前に連帯保証人になるリスクを理解し、納得したうえで署名することが重要です。
すでに連帯保証人になっている場合は、債権者から支払い請求された際の対処方法を把握しておきましょう。場合によっては、負担を軽減したり、返済義務を免れたりできる可能性があります。
それでもお困りの際は、法律専門家の力を借りるのが有効です。法律専門家を味方につけることで、自力ではできないようなトラブルの解消も期待できます。
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